夏のビジネスシーンではすっかり定着した「クールビズ」。ジャケットやネクタイを着用しない軽装は、地球温暖化対策の一環として社会的に推奨されています。では、このクールビズのスタイルは、葬儀というフォーマルな弔いの場で許されるのでしょうか。結論から言うと、たとえ真夏であっても、葬儀の場で自己判断によるクールビズ(ノーネクタイ、ノージャケット)は、原則としてマナー違反とされています。葬儀は、故人への最大限の敬意を表し、その死を悼むための厳粛な儀式です。そこでは、個人の快適さよりも、その場にふさわしい格式と礼節が優先されます。したがって、男性はジャケットとネクタイを着用したブラックスーツ、女性はジャケットを羽織ったブラックフォーマルが、季節を問わず基本の装いとなります。しかし、近年では、記録的な猛暑による熱中症のリスクが社会問題として広く認識されるようになり、葬儀の場でもその考え方に少しずつ変化が見られるようになりました。特に、ご遺族側が参列者の健康を気遣い、葬儀の案内状に「平服でお越しください」や「クールビズでお越しください」と明記している場合があります。このような場合は、ご遺族の意向に従い、ノーネクタイ、ノージャケットで参列しても全く問題ありません。ただし、その場合でも、黒や濃紺のパンツに白いシャツといった、できるだけ地味で清潔感のある服装を心がけるべきです。また、当日の会場で、司会者やご遺族から「どうぞ上着をお脱ぎください」といったアナウンスがあった場合も、それに従ってジャケットを脱ぐことは失礼にはあたりません。重要なのは、自己判断で軽装をするのではなく、あくまでご遺族の意向や、その場の案内に従うという姿勢です。故人を敬う気持ちと、自分や周囲の人の健康を守るという現実的な判断。その両方を尊重しながら、状況に応じた適切な服装を選ぶことが、現代の夏の葬儀に求められる新しいマナーと言えるでしょう。