私がこの仕事を始めたばかりの頃、葬儀とは悲しみに満ちた、厳粛で静かな儀式であるべきだと考えていました。しかし、あるご遺族との出会いが、私の考えを根底から覆すことになったのです。亡くなったのは、八十歳を過ぎたおばあ様でした。打ち合わせの席で、娘さんが涙ながらに語ってくれたのは、お母様がどれほど明るく、お喋りで、人を笑わせるのが好きな人だったかということでした。「母は、湿っぽいのが大嫌いでした。だから、お葬式では、みんなに笑っていてほしいんです」。その一言が、私の心に深く突き刺さりました。私たちは、おばあ様の人生を一つの「物語」として表現するお葬式を創り上げることにしました。会場には、おばあ様が愛した演歌を流し、祭壇には、ご自身で編んだ色鮮やかなセーターを飾りました。そして、告別式では、私が司会として、ご家族から伺ったおばあ様の愉快なエピソードの数々を、心を込めて紹介していきました。若い頃のやんちゃな話、自慢の料理の失敗談。そのたびに、会場からは温かい笑い声が起こりました。それは、決して不謹慎な笑いではありません。故人の愛すべき人柄を思い出し、その存在を慈しむ、愛情に満ちた笑いでした。式の最後に、娘さんが「こんなに明るいお葬式、母が一番喜んでいると思います」と涙ながらに微笑んでくれた時、私はこの仕事の本当の意味を理解した気がしました。私たちの仕事は、ただ儀式を進行することではない。故人の人生という物語を、ご遺族と共に丁寧に紡ぎ直し、その物語が持つ輝き、すなわち「ディライト」を、参列者全員で分かち合うお手伝いをすることなのだと。悲しみの奥にある、その人だけの光を見つけ出す。それこそが、私たちの使命なのです。