涙の向こう側に見えた笑顔の記憶
祖父の葬儀は、昔ながらの、とても静かで厳粛なものでした。読経の声が響く中、参列者は皆、黒い服に身を包み、沈痛な面持ちで祭壇を見つめています。私も、大好きだった祖父との突然の別れに、ただただ涙をこらえるので必死でした。そんな重苦しい空気の中、事件は起こりました。まだ五歳になる私の従妹が、式の途中で飽きてしまったのか、母親の制止を振り切って、祭壇の前まで駆けて行ってしまったのです。そして、遺影に飾られた、穏やかに微笑む祖父の顔を指さし、会場中に響き渡る大きな声でこう言いました。「じいじ、またブッコロリンして!」。会場の空気が一瞬で凍りつきました。「ブッコロリン」とは、祖父が生前、孫たちを笑わせるためにやっていた、ほっぺたを膨らませて変な音を出す、得意の変顔のことでした。従妹の母親が真っ青になって駆け寄ろうとした、その時です。一番前の席で、誰よりも深くうなだれていた祖母が、小さく「ぷっ」と吹き出したのです。それをきっかけに、堪えていた堰が切れたように、あちらこちらから、くすくすという笑い声が漏れ始めました。それは、涙で濡れた顔のまま、皆が思い出し笑いをする、不思議で、そして信じられないほど温かい光景でした。従妹の無邪気な一言が、悲しみで凝り固まっていた私たちの心を解きほぐし、厳格だった祖父の、お茶目で優しい一面を鮮やかに思い出させてくれたのです。あの瞬間、私は確かに感じました。深い悲しみの涙の向こう側に、祖父と過ごした日々の楽しかった記憶、きらきらとした喜びの光景が、はっきりと見えたのです。葬儀とは、ただ悲しむだけの場所ではない。故人が遺してくれた笑顔の記憶を、皆で確かめ合う場所でもあるのだと、あの日の小さな「ディライト」が、私に教えてくれました。